アルペンスキー撮影記

毎冬、ヨーロッパアルプスを中心に行われるアルペンスキーワールドカップの魅力を紹介していきます

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湯浅直樹の近未来

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 「世界で湯浅にしかできない滑りがある」

そう始まる24日朝刊の記事を読まれた方も多いのではないでしょうか。

 湯浅直樹、久々のW杯一桁順位は「復活」の見出しとともに毎日、産経などの師走の全国紙のスポーツ面を堂々と飾りました。

 以前にも幾度かこのブログで紹介した私の「戦友」である共同通信の戸部氏の執筆ですが、日本全国、多くの新聞社のスポーツ担当がその価値を認めての大きな掲載となりました。

 記事内容を読んでいただくと、ソチオリンピック、そして平昌オリンピックのことをからめ、アルペンスキーW杯というもの自体をよくご存知ない読者の方々にもわかりやすく書かれています。

 もちろん、私はワールドカップで勝つことはオリンピックや世界選手権で勝つことよりも難しく価値あるものと考えているひとりなので、どうしてもオリンピックをからめて書かざるを得ない日本のマイナースポーツの「宿命」のようなものは報道する側が変えていかなければならないものだろうと考えています。

 いずれにせよ、この12月2戦の活躍で「復活」を「宣言」できる滑りを見せてくれた湯浅直樹はその滑りが報道されることによって、さらに新たなファンを獲得し、より日本でのアルペンスキーの認知度向上に貢献していくことでしょう。

あらためて大きな感謝と、2017年の期待を込めて

私は「今年もクリスマスプレゼントをどうもありがとう! 2017年もどうぞよろしくお願いします。」という気持ちです。

冒頭の写真は2本目、ラップを逃して悔しがる湯浅直樹

レース後、開口一番は「勝ちたい!」でした。

「自分としてはコツコツやってきて、(良い)感覚を得て一つ一つビルドアップしてきたつもりですが、現時点であれだけの差があって、追いつきたいんですけど、まだもう一皮むける必要があるなと思う。強敵かなと」

湯浅自身が認めるだけでなく、日本で映像をご覧になっているアルペンスキーファンのみなさまもお感じになっていらっしゃるでしょう。

今、SLでヘンリック・クリストッファーセンとマルセル・ヒルシャーの滑りは抜きん出ており、この2人は「別格扱い」の次元と言っても差し支えないレベルです。

「命をかけてやっていますが、本当に死んでもいいからというつもりで滑ったとしても、勝てるかどうかわからない相手なので、逆にここで吹っ切れた気がしないでもない。次からも思う存分アタックして、なおかついい滑りができないとやっぱりあいつらには届くどころか、軽くあしらわれて、あの2人の戦いを枠の外で見ているしかないんだなっていう気持ちでいっぱいなので」

それでも、湯浅は36番スタートの1本目、トップ、クリストッファーセンとのタイム差は0.72秒差の8位。

第一計時は16.96秒で16.98秒のヘンリックを0.02秒上回るラップタイムだった。

これは湯浅自身、過去2番目のトップとのタイム差で、1本目の中間計時でラップを出すのは初めてのことだった。

 (1本目過去最小のタイム差は2011年3月クラニスカ・ゴラで20番スタートから0.52秒差の8位につけたとき。この時のラップはスウェーデンのアクセル・ベック。湯浅は2本目のゴール目前でコースアウトし、優勝はマリオ・マットだった。ちなみに3位表彰台に立った2012年のマドンナは1本目2.06秒差の26位だった)

「1本目のセッティングはテクニカルなコースにテクニカルなセッティングが立ったので私向きだったので、途中失敗するまではいいペースでこれた。2本目はここまでガチンコのレースになると、どうしてもあいつらが上手になってしまって、自分のいいところが出せずに終わってしまう。課題がいっぱいです。」(2本目はまっすぐ目なセッティングだった)

「ただ調子が上がっているのは間違いないので、このまま順位を落とさずに、8,7,6,5,4,3,2,1と、どんどん順位をあげて行きたい」

1月は、5日ザグレブ、8日アデルボーデン、15日ウェンゲン、22日キッツビュール、24日シュラトミングと連戦となるスラロームの山場の期間です。

各レース、湯浅の過去の最高成績を並べてみましょう。

ザグレブ22位、アデルボーデン14位、ウェンゲン23位、キッツビュール15位、そしてシュラトミング5位。

こうして過去の最高成績だけ見ると、とるべき作戦も自ずと見えてきます。

まずは年明け初戦、1月5日のザグレブのナイトレースは緩斜面主体で、ワールドカップの中では比較的簡単な部類のコースです。

例年、各選手のタイムも僅差で少しのミスで2本目進出を逃すこともある、油断のならないレース展開となることが多いのです。

バルディゼール、マドンナディカンピリオの湯浅の調子を考えれば、2本目進出は間違いのないところではありますが、もしザグレブで表彰台に立ったとしても、第一シード入りには届かないので、しっかりと戦略を練って、過去22位が最高の得意とは言えないコースでまずは確実に2本目に残り、ワールドカップポイントを獲得して、次戦以降のスタート順を少しでも上げることを目指す戦い方も「あり」でしょう。

もちろん、1月の5戦の中で、表彰台を狙うのは彼が得意とするシュラトミングなのはアルペンスキーファンの皆様であれば異論はないでしょう。

そのシュラトミングのスタートバーの前に立ったとき、その胸のビブナンバーが10番台、くじ運が良ければ一桁で立てる、つまり第一シードに入っているのが理想です。

チャンスはいつ訪れるかわかりません。1本目、2本目共に湯浅の得意とするテクニカルなセットが立つこともあるでしょう、マルセルやヘンリックとて、思わぬミスをすることもあるでしょう。

「今日のような戦いをしていれば、必ずチャンスは来ると思うので、しっかりそれを粘り強く待って、もう一回表彰台、そして最後には笑って勝てるような戦いにしたい」

そう、多くの要素が絡んで、湯浅にとって大きなチャンスが来た時にそれを逃さず掴みとる力が今季の彼にはあるように思えてなりません。

もし、シュラトミングで第一シードでなかったとしても、次のサンモリッツ世界選手権では15番以内の数字が胸にあることも可能性としては十分あると思います。

そんな「近未来の期待」を大いに抱かせる12月の2戦の滑りは、今までよりも安定感が増し、見ていてコースアウトするような心配がありません。

「本来、調子いいときはずっとこのような感じだったので、ずっと一緒にいつも応援してくれている人にはやっと2年越しに『ただいま』って言えるような成績を出せたんで、これからしっかり頑張りたい」

「気負うことなく、ちゃんと滑れば今日のような結果は出てくるという気持ちでいます。誰に何を言われようと、必ず勝つということだけは考えています」

そう、本気で勝ちたいと思うことさえしない者には勝利は訪れない。

この2年間、勝利への道は遠くなっていた。しかし、2016年12月の2戦の湯浅直樹の戦いはその距離を大幅に縮めてみせた。

悲願はもうすぐ手の届くところにあるのか、その答えは2017年の湯浅直樹がチャンスをその手で掴みとって、我々の前に見せてくれるだろう。

2016年もこのブログをご覧いただき、ありがとうございました。来たる新年、2017年もどうぞよろしくお願いいたします。